花は折りたし梢は高し
宮城県の高校を中心に集って行った練習試合。第3試合終了の笛がなる。
すぐに他校の試合が始まるため、ボトルやタオル、選手が脱ぎ捨てたジャージを持てる限り抱え、体育館外のホールに向かった。隅に集合し円陣を組むと烏養監督が試合についてのコメントを簡潔にした。私は選手たちに飲み物とタオルを手渡しながら、今回の試合を振り返っていた。まだまだ技術は未完成なものの、だいぶ安定はしてきた。常に皆が進化しているせいか、いつも試合は新鮮に感じる。
「ということで、今日は試合は終わりだが持ち帰って試すべきことは沢山ある。明日からもまた頑張るぞ。」
「「あざす!」」
澤村さんに続いて皆が礼をする。私は折をみながらボトルを回収していると、横からボトルを手に、月島が現れた。
初対面の性格の悪さが尾を引いているのか、最近何かと月島が優しく見える。マネージャーとしてネットの張り上げやボール拾いや部費の回収などをしていると月島がふらりときて手伝ってくれることが増えた。
籠に入れるためにボトルを拾ってくれたのかなと思い籠を差し出すと、何を思ったのか月島は
籠ごと私の手から奪い取り、空いている隙間に自分のボトルを入れて、歩き始めてしまった。
「え、ちょっと、月島、私が持つよ。」
「たまには後輩がやりますよ。#dname#さんも疲れてるでしょ。」
そう言って月島は私に籠を渡そうとはしない。月島だって殆ど試合に出てたし、表情は何時も通りだったけど流石に疲れてるだろう。マネージャーという肩書を持つ私にとって、ボトルの洗浄は本職なので、後輩といえども月島にやらせるのは流石に職務怠慢だ。
「月島今日3試合ともでて疲れてるでしょ。上でちょっと休みなよ。」
籠に手を延ばしてみるものの、ひょい、と交わされる。見上げると月島は面白そうに笑みを浮かべていた。一応先輩は私なのに、と思うが、この身長差で何を言っても先輩らしくないな、せめて潔子さん位の威圧感があればいいのに。そう思いながら恨めしそうな表情を浮かべた。
「…#dname#さんって本当に先輩らしくないですね」
「そういう月島は後輩らしくないですね」
どうせ暫くは取り返せないだろうな、と諦めた私は黙って月島の隣を歩くことにした。いつもながら隣を歩くとより一層月島の身長の高さを意識させられる。身長自体は東峰よりも大きいのに線が細くてモデルみたい。並んで歩きたくないなと初めは思っていたが最近はもう慣れてしまった。
手洗場まで行くと、月島は蓋を外してスポンジを泡立て始めた。本当にやらせていいのだろうか、と思いながら見つめてると手際よくボトルを洗い始め、泡にまみれたボトルを私に渡してきた。どうやら、私はすすぎ担当らしい。マネージャーとしての主導権すら握られ、
威厳が全く無くなってしまった私はそれを受け取り、言われるがままにボトルをすすいだ。
「良い匂いしますね」
「うそ、洗剤変えてないよ?」
水が良いという選手もいるから、ボトルを洗う洗剤はなるべくきつい臭いのものを避けているつもりだったのに。いまなに使ってただろう?と月島の近くにある洗剤を見つめていると、月島が笑った。
「多分、洗剤じゃないですよ」
手についた泡を落としながら、月島は私に近づいてきて、私の頭の上に顎をのせた。視界が月島くんのジャージでいっぱいになる。ほんのりと、月島から汗と柔軟剤の香りがした。
「#dname#さんの匂いでした。くどくなくて良い匂いですね、これ何の香りですか?」
そう言い残すと、月島は顎を引いて、何事もなかったかのようにまた、ボトルを洗い始めた。私は今、月島にされたことと、月島の何もなかったような態度で混乱していた。今時の男子高校生って、こういうこと平気でできるの?
相変わらずしれっとした顔で作業を続けている月島を見つめてると、こちらを見て笑い出した。
「酷い顔してますけど大丈夫ですか?」
「誰のせいだと思ってんのよ」
「僕のせいですか?」
「…月島ちゃらいよ、良くない」
ほんとチャラい。そう馬鹿みたいに繰り返していると、月島の表情から笑みが消えた。水道の栓を捻ると、水が止まった。給湯室が静かになる反面、私の心臓は煩くなった。
「僕のことどんな風に見えてたんですか。」
月島との距離が近くなる。もう先輩の威厳だとか、余裕だとか、そういった類いのものを私は持ち合わせてはいなかった。距離と比例して顔が染まる。しどろもどろしていると、月島がため息をついた。
「誰にでもこういうこと、するわけじゃないですよ、僕は。」
そういって、月島は私の頭を乱雑になでると、給湯室を出ていってしまった。突然の出来事に、頭が上手くついていかなかったが、身体だけは機敏に反応して、去っていく月島の腕を捕らえた。
月島は、一瞬硬直したあと、こちらを振り返った。表情こそいつもと変わらないものの、耳が赤くなっていた。
「言い逃げさせてくださいよ、」
「・・・無理。わかんない。」
「僕より長く生きてるんだから、察してくださいよ。」
月島は、空いた手で頭をかきながら、なにかを思案しているようだった。はぁ、とため息をひとつこぼすと、私に視線を合わせてきた。
「もう、分かってると思いますけど、#dname#さんのこと、好きです。」
「・・・本当?」
「僕のこと冗談言うようなやつだと思ってないでしょ。まさか冗談言ってるように見えてるんですか?」
「・・・見えないです」
そういうと月島は「じゃあそんなことわざわざ言わないて下さいよ、僕だって別にこういうの慣れてるわけじゃないんだから。」と続けた。
「ここまで言ったんですから、#dname#さんの返事もしっかり聞かせてもらいますよ?」
月島の顔はまた、意地悪な顔に戻っていた。どうせ私が何をいうか分かっているくせに、と心のなかで悪態をつく。
「・・・これからよろしくおねがいします。」
そういうと月島は笑った。
「こちらこそ、」
(2015.12.26 → 2024.02.23加筆修正)