冠をあなたに

 購買で清水さんを見かけて挨拶をした時、隣に居たのが#dname#さんだった。彼女は清水さんと対照的に常に少しだけ口角が上がっているのが印象的だった。 彼女のことを女子アナみたいという人も居たがそれは彼女の表情も一因だろう。清水さんに頭を下げた俺に優しい微笑みを向け「潔子の後輩はいい子ばっかりだね、私の後輩はいつも揶揄ってくる。」と言ったが、「それは#dname#がヘラヘラしてるからでしょ」と清水さんに一蹴されていた。

 綺麗というよりは可愛いと表現したほうが的確だろう。彼女は確かに清水さんのように敬われるというよりは、同じ目線で話してしまいそうになるような雰囲気を纏っていた。

「影山くんでしょ、潔子から聞いてるよ。バレー凄い上手なんだって?」

「親戚の子供に聞くおじさんみたいだから止めて」

「1年生なんてもう可愛いじゃん、仕方ないよ」

 可愛いと言われたのはちょっと納得いかないけどバレーが上手いと褒められて悪い気はしない。あざす、と小さく呟くと#dname#さんはにこにことした笑みを返した。俺は何か話を続けないと、と清水さんに話すことはないか脳内を探し回り、一つ思い出した話題を出した。

「今週末の練習試合のことなんすけど、朝に自主練したいんで、鍵借りてもいいすか?」

「そうね、きっと日向達もやりたがると思うから…、今日の部活の後に渡すわね。」

 別に今じゃなくてもいいのに、清水さんはわざわざそういうことを言わないから助かる。どうしても隣に居る先輩と少しでも一緒の空間に居てみたくなって無理やり話を繋いだ。それでも、そもそも俺は雑談をするのに向いてない自覚はあり会話は長くは持たなかった。

 清水さんは「それじゃあまた後でね。」と言って背を向けた。隣であの先輩が練習試合についてなにか聞いているようだった。#dname#さんともう少しだけ話してみたい。どうせならその目で俺のバレーをみて心から上手だと思ってほしい。

𓍰𓍰𓍰

「あれ、#dfam#じゃん、どうしたの?」

 土曜日。朝練が終わり昼飯を食べていたときだった。午後から他校と練習試合にのため先輩たちや日向がいつも以上にそわそわしてた中、菅原さんが聞き馴染みのない名字を呼んだのが耳に届いた。その声につられて俺含め何人かの部員が振り返ると、そこにはあの先輩が立っていた。ノヤさんが「#dname#さん!」と叫ぶ。

「おつかれ!講習のついでに、練習試合があるっていうから見に来ちゃった。」

 どうやら、彼女は2年の先輩たちにもには面識のある人物らしい。#dfam##dname#。そう、頭の中で反復する。日向は頭にクエスチョンマークを浮かべながら「誰だあの人。」呟いた。清水さんが「私の友達よ。練習試合見てみたいって言うから誘っておいたの。」と言いながらなぜか俺のほうに視線を寄こしてきた。清水さんが少しだけ笑みを浮かべながらその視線を#dname#さんへと移動させて彼女のほうへ向かっていった。なんだ、と思いながらも深く考えず俺も#dname#さんのもとへ向かう。今日は調子がいいから絶対に見てほしい。

#dname#さんは体育館を見渡した後、俺を見ていつもの笑みを浮かべた。俺は慌てて会釈する。1回しかまだ会ったことはないのに覚えていてくれたのか。と、密かに高揚感を覚えた。

「来てくれたんすね、嬉しいです。見てってください。」

「はー別にお前のためじゃねーだろ、どうしたんだ影山」

「いや、影山くんの噂は聞いててちょっと興味持ったのは本当、潔子から聞いた」

「潔子さんがっ!俺の話はしてましたか!!」

「2年は特にうるさいって言ってた」

「そんな…俺も超キレキレストレート打つので!楽しみにしててください!!」

「ふふ、楽しみにしてる。」

 #dname#さんの周りはあっという間に人が集まって賑やかになった。本当はもっと話したかったが仕方ない。菅原さんたちや田中さんとも試合について色々話し続けている。一瞬しかだけでもそれは十分に俺の燃料になった。

「影山ー!一本とれー!」

 集中力は申し分ない、今日のサーブ練も調子が良かった。相手を殺すつもりの一本。トスが高く上がる、ジャンプのリズム完璧。サーブは狙ったところに着地する。サービスエース。ついベンチの方を見つめると#dname#さんは目を輝かせながら拍手をしていた。無意識に口元が緩む。二本目はリベロに上げられる。セッターポジションに駆ける。

 今日は日向も調子が良く危なげなく1セット目を取ることができたが2セット目は相手が徹底した日向潰しで対応していたため苦戦を強いられた。

 試合の終盤、日向のサーブが捕まって俺と月島でブロックに飛んだ。月島がいつもより低い。

「今ジャンプサボったろ、」

「王様や日向みたいに体力馬鹿じゃなんだよ」

 肩を上下させながら月島はそういった。嘘だ、絶対まだこいつは飛べると思いながらもこれ以上言うと鵜飼さんと大地さんに怒られそうなのでそれ以上言及しなかった。

 最終的に烏野が3セット取って勝利。まだまだ改善点はあると反省しながらタオルで額の汗を拭う。清水さんに混じって#dname#さんがボトルを渡してくれた。

「影山くんって王様って呼ばれてるんだね、すごい。」

「…元々暴君みたいな意味合いでつけられたので好きじゃなかったんですけど、今ではあまり悪い気もしないです。」

「そうなんだ、影山くんも変わったんだね」

「はい、それに、#dname#さんに凄いって言ってもらってますます自信出ました」

「そんなに大したことじゃないけど、良いことならよかったよ」

「俺が王様なら、#dname#さんは女王様っすね」

 「#dname#さんに褒められるとなんかめちゃめちゃ頑張れる気がします。」王を焚き付ける存在という意味で女王様と言ったつもりなのだが#dname#さんは一瞬間の抜けた評定をした後頬を染めた。

「練習試合中に口説くとか、さすが王様」

「あ?そんなことしてねーだろ」

「…影山、まさか、それ他意無く本気で言ってんのか?」

 月島だけじゃなくて菅原さんにも突っ込まれた。#dname#さんは相変わらず俺止めを合わせてくれなくなったし武田先生は微笑ましい顔をして俺を見る。

「だからこれからも応援してもらえると嬉しいっす、てっぺんまで連れてくんで。」

 周りは騒がしいけどいつものアナウンサーみたいな笑顔じゃない#dname#さんがを見れて俺は満たされている。これからプレーを見てる間にいつか俺のこと可愛いじゃなくて格好いいって言わせてやる。そうも思いながら2試合目の準備を始めた。


(2024.03.20)

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