ショートカットアタック

 部活帰りにどうしてもお腹が空いて鶴亀製麺行ったら混んでる。1日だからだ。釜揚げうどんを頼む。空席が少なくてどうしようと辺りを見回してると聞き覚えのある声が私を呼んだ。

「なんや#dname#やんか」

「うわ、治やん」

 中学のクラスメイトだった宮治が2人用のテーブル席に掛けていた。一番大きいサイズと思われるうどんと稲荷。男子高校生の食欲はえらいもんやなと呆然と見つめていると、治がトレーを手前に引いてスペースを空けてくれた。向かいを使ってええと言うことやろか、と思い席に腰掛ける。

「なんや自分えらい顔死んどったで。」

「部活終わりの人間の顔がイキイキしとるほうがおかしいんよ」

「そうか?俺はあとは飯食うだけやーと思ったら結構幸せやで」

 のびるで、はよ食いや。

 久々に会ったもんやからなんか世間話でもした方がええかなと思ったのに治は昨日も一緒に飯食った奴相手にするみたいにそう言っていなりにかぶりついた。

 慌てて麺を啜りながらちらりと治に目を向けると昔よりも一回りがっしりとしていて顔つきも大人っぽくなっていた。口元に伸びた腕は筋が入っていておいなりさんを包む手のひらは大きい。

 やる気なさ気に伏せられた目は男子なのにまつ毛が長くて改めてみるとこいつほんまイケメンやな。侑も幾ばくか大人になってるんやろか。いやそれはないな。

「なんや俺の顔になんかついとるか?」

「いや、久々にあったらやっぱりあんたら黙ってたらイケメンやなと思ってただけ」

「はは、なんやそれ、今更気づいたんか」

そう言って目を細めて静かに笑う治。

「謙遜ないのほんまあんたららしいよな、腹立つわぁ」

「謙遜したって#dname#は腹立つやろ、まだ相変わらずお母さんやっとるんか」

「お母さんってあんたらが勝手に言っただけやんか、あんたらが好き勝手やるから注意しとっただけやろ。」

「やからお母さんやろ、育ててくれてありがとな。」

「高校でも相変わらざずそんななん?2人揃って一緒のとこやろ?」

「部活に#dname#よりおかんな先輩が1人おんねん、せやからツム前ほどはしゃいどらんよ」

 そしたら逆に勝手にツムのイメージを作り上げた女がキャーキャーして試合見に来るけん、それはそれで鬱陶しいけどな。 とつづけてぺろり、と最後の一口が口の中に消えた。

「半分はあんたのファンやろ」

「俺のファンにそないなやついるわけないやろ」

「いやおったって、昔私も絡まれたやん」

「は?何それ知らんけど」

「あれ、うそ、やっぱ今のなしな」

 中学の時から目立っていた宮兄弟で中でも治を推してる先輩がなぜか私につっかかってきた。私は普通にあいつらのクラスメイトだし友人だったから試合も見に行ったり色々遊んだらしたけど、彼女には2人をたぶらかすクソ女に見えたらしい。

 だとしても知らんがな。私にどうこう言う前に本人にアプローチすればええやろ。そう思ったが言ってしまうと余計に拗れそうなので適当に流してその場を後にした。
 別に彼女の言うことをまともに受け取ったつもりもなかったが異性としての人気が増していく宮兄弟への対応は少し配慮するようになった。それから徐々に試合を見ることもへり、3年でクラスが変わったタイミングで疎遠になった。

「お前が俺らから距離置いとったんは知ってたけどそれが原因なん?」

「いや、距離とったつもりやないけどな、そもそも3年でクラス変わったからやろ」

「…いや、明らかお前試合見にこんくなったやろ」

「あんたら何かと注目されるし、きちんと接し方わきまえようと思っただけや」

「なんで外野気にしてお前が遠慮せなあかんねん、俺あれ結構ダメージくらったんやからな」

 うどんがつるり、と箸から逃げる。再び桶に麺が沈み、水滴がトレーに飛ぶ。うどんへたくそか。と治が小さく笑う。

「可愛いファンが大勢おるし、あの頃よりもさらに応援団増えとるんやろ?今更気にしんくてええやろ」

「今でも#dname#が来てくれるんなら、俺は他のファンいらんねん」

「私バレー詳しくないしそんな声通らんよ?」

「そう言うことちゃうねん、俺は#dname#に応援して欲しかったんよ」

「なんでよ」

「なんでやと思う?」

 そう言って治は頬杖をついて私を見つめる。いつもの無気力な瞳の奥に熱を感じた。口元は私を試すように片方だけが弧を描いていた。

「…治、私のこと好きなん?」

「そうやで」

「いつから?」

「知らんわ、#dname#こんくなってからやもん気づいたの。」

「嘘やろ」

「ツムやないんやからこんな話で軽口叩くわけない。てか#dname#が一番よくわかっとるやろ」

 久々にあった治にまさかそんなことを言われるとは思ってなくて急にどんな顔をすれば良いかわからんくなった。そういえば私今部活帰りで化粧もしとらんし汗で全身ドロドロや、なんでこんな状態の時にそんなこと言ってくんねん。言ったけどいややっぱ今日改めて見たら無いわ、とか思われてたら最悪や。

「言っとくけど昔の話じゃないからな」

「…ちょっと待って」

「まああんま深く考えんで良いからさ、とりあえず週末また練習試合あるから見に来てや」

 LIME変わってないよな?という問いかけに頷くと、久々に見た治のアイコンから試合日時と場所が送られてきた。

「試合見にいくん嫌か?」

「嫌やないけど…」

「じゃあ来てや、そのあとメシでもいこ。」

 じゃあ帰るわな、と言って治が去っていった。残された私はたぶんすごく間抜けな顔をしている。 正直治が私のことを中学から今日に至るまで好きだったとか信じられん。心臓がばくばくする。 週末どんな顔して治に会えばいいんだろう。唐突すぎてこの感情が好きを指す気持ちなのか、まだ私は分からんけど せめて次治に会う時は少しでもまともな顔と格好で行かな、と週末に思いを馳せて後を追うように帰路についた。


(2024.03.02)

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