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02 日進月歩

 あれからも#dfam#はよく眉間にしわを寄せて何かを考えていた。スマートフォンで動画を見ている光景が前よりも増えた気がする。と言っても何かを流し見しているわけではなく、繰り返し同じシーンを何度も見ているようだった。僕も僕で週末にやった日向と影山との3対3から無性にイライラすることが増えていたので特に#dfam#に何かを言うこともなく、ただの隣の席のクラスメイトの距離感を保っていた。

 ふと、村上の話を思い出し”#dfam##dname# 写真” で検索したら目当ての記事はすぐにヒットした。

「#dfam##dname#、中高生フォトコンテスト最優秀賞受賞」

 ベッドに寝転んで画面を見上げる。村上の父親が書いたというインタビュー記事に目を通す。書いている内容は理解できるがどうも今日であった#dfam##dname#という存在から受けた印象とは合致せず違和感が残った。

 写真と並ぶ#dfam#の堅い笑顔。堅いながらも目は生気を宿していてこれからも立ち止まらずに進んでいく、そういう熱量すら見える瞳。緊張が見て取れるがそれでも彼女の表情は写真と同様に人目を引き付ける何かが感じられた。

 スクロールしていくと記事へのコメント欄があった。流し見をしていると写真についてのコメントや写真業界に対して語るものなど様々だが、単純に中3でこれかよ、可愛い。等と容姿に対するコメントが幾つかあった。これはコンテストの記事だし、コイツ中3だし、知り合いでも芸能人でもないやつにそんなこと書いて空しくないのか。別に僕だって#dfam#の友人と呼べるような立場ではない、たまたま隣の席になっただけのクラスメイトだということは分かりながらも無性にそのコメントにイライラしてブラウザを閉じた。

 あのコメントは#dfam#も見たのだろうか、あんなノイズは彼女に届いてほしくない。

𓍰𓍰𓍰

 昼休みは僕と山口、その隣に#dfam#と村上が座ってることが多くなった。必然的にバレーの話が多くなったが、先日の青城との試合でサーブを狙われたことが時折脳裏によぎる。山口は時折僕の様子を窺うようにして話を逸らそうとするが、村上は基本的に人の感情の機微などお構いなしなので女子バレーの話をつづけた

「そういえばあの北川第一のセッターも烏野だったんだね、この前見かけてびっくりした」

「そうだよ、白鳥沢落ちて来たらしい、相変わらずの王様っぷりだったよ」

 中学のコート上の王様から今少し変化があることは僕にも分かっていたがどうしても折り合いがつかず吐き捨てるようにそう言った。

「全国狙ってるって聞いたよ、すごいね。でもあのセッターが居れば本当に行けるんじゃない?」

「どうだろうね、まだ守備も攻撃力もその辺の高校とは変わりないと思うけど。幾らあいつらの変人速攻があったって攻撃を決めきれない、拾えないじゃ全国どころか地区大会でも勝ち進めるか怪しいと思うよ。」

「月島くんはどうなの?」

 ”北川第一のセッター”からあまりピンときてなかった#dfam#さんがふと口を開いた。

「ツッキーもレギュラーだよ!今バレー部の中でも一番大きいから何といってもブロックがすごいんだ!」

「なんで山口がそんな自慢気に言うの。でも僕くらいの身長なんて珍しくもなんともないからね。」

 所詮エリート校の王様といち庶民、庶民らしく僕はほどほどに部活を頑張るだけだよ。そういって笑ったが#dfam#さんは意に反していつものあいまいな笑みは浮かべずじっと僕を見つめていた。

「…前にも似たようなこと言ったけど#dfam#さんだって辛いなら辞めればいい。今どれだけ頑張って見せても結局それで生きていけるのは一握りで大体の人間は10年後には全然関係ない仕事をしていて、せいぜいあのころ頑張ってたね、って懐かしむ程度の思い出になるんだから。」

「確かにそうかもしれない」

 ちょっと、と村上が口をはさんだが#dfam#さんは構わずに続けた。

「でもそうじゃないかもしれない。10年後に私が空っぽにならないように今頑張りたいの。」

 そういって#dfam#さんはまっすぐに僕を見つめた。いつもこういった話題はあいまいに笑って避けていたからこうやって真っ向から反論されるとは思ってなくて一瞬言葉に詰まった。その目には見おぼえがあった、あのコンテストの写真に写っていた瞳だった。強く僕を射抜く目。いつの間にその表情を取り戻したのだろう、この半月も満たない間に彼女は何が変わったんだろう。

 まああくまでも僕の考えだから、#dfam#さんがそう思うなら頑張って。そういうと#dfam#さんは少し寂しそうな笑みを浮かべてありがとう。といった。お前はどうなんだ、といった意思をそこに少しだけ感じた。

 ああ嫌だ、どうしてみんなそう前ばかり向いて走るんだ。走った先に何かあるのかもわからないのに。


(2024.02.24)

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