07 完璧な人間じゃないから
帰宅して早速動画を見てみたが、肉眼ではあんなに迫力があった試合がビデオカメラを通してみるとコートに響いてた靴の擦れる音、歓声、緊張感が薄れていた。素材はすごく良かったのにありふれた動画にしてしまったことが申し訳なくて机に突っ伏す。
”無事家につきました!部活で疲れてたのにありがとう。”と月島くんに送信したLIMEは既読はついていたものの返信はなかった。
まあ安否確認だしそういうものなのかな、と返信を諦めながらSNSを開くと昔の先輩の投稿が目に入った。中学のころ同じ部活の先輩だった奈美先輩は卒業後東京の高校に進学し今でも動画制作をやっているらしい。高校の部活として映像制作をやっているらしく、動画に写った奈美先輩はいやに堂々としていた。私を見て。と言わんばかりのそれに吐き気がしつつも目が離せない。私にここまで執念のある画は作れない。そう思いながら動画を見つめていると来ないと思っていた月島くんからの通知が来た。
“やっぱり写真見たい、出来たら教えて。”
そういえば写真のほうの出来はどうだったかとカメラからSDを抜いて読み込む。長くやってきたという自負のせいなのか写真は幾ばくか動画よりも出来は良いように見えた。何枚かLIMEで送れるように出力したが、見せたときの月島くんのリアクションが不安で何となく送る勇気が出なかった。
“出来上がったら渡すね”
そう返信だけ残して目を閉じた。
今日あった出来事を脳内でたどる、月島くんが上着を貸してくれたのは意外だった。そういうことはしなさそうなのに不覚にも少し意識してしまった。あ、でも月島くんのジャージ着て結構動き回ったのに洗いもせず返してしまった。臭かったらどうしよう、最悪だ。でもそもそも洗濯するよって引き取らなかった自分の気の利かなさに絶望した。
ジャージ洗わなくてごめんない、と連絡しようかと思いつつ却ってそれで匂いに敏感になられると困る。悩んだ末私は何も言わないことにした。
翌日、月島くんからのメッセージはなかったけれど代わりに菅原さんから連絡が入っていた。”おはよ~!昨日の撮影どうだった?良かったら昼休みにでも見せて!”文章から分かる元気ハツラツさに笑みをこぼしながらOKです。と返信をする。菅原さんのリアクションをみてから月島くんに見せるか決めよう。そう思いながら再びカメラとメモリーカードを鞄にしまった。
学校に到着すると月島くんと山口くんが何かを話していた。私に気づくと山口くんは笑顔で挨拶を返してくれるが相変わらず月島くんは無表情だった。朝が一番無愛想なことはここ最近仲良くしてきて分かってきたことではあったのでさして気にせず席に座る。
「昨日どうだった?バレー面白かった?」
「はは、それ月島くんにも聞かれたよ。みんなそんなに気になるの?面白かったよ。というかすごかった。」
「ちょっと余計なこと言わなくていいよ」
「なんでよ別に恥ずかしいことじゃないでしょ」
山口くんはへえ、と驚いた顔をして月島くんを見つめていた。月島くんの眉間に皺が寄る。
「日向も影山もツッキーもすごかったよね!わかる。あと俺は商店街の人たちもすごいなって思った。」
「確かに、あのお兄さんたちもすごかったよね」
「ジャンプフローターサーブ、烏野ではやってる人いないんだ。俺習得してみたいな…」
「山口くんならできるよ!頑張って!」
無責任に出来るなんて言うもんじゃないよ、と月島くんに咎められたが山口くんは思いつきでものを言う人じゃないのは彼が一番分かっているはずだ。出来ると思ってるから言ってるんです、と唇を尖らせるとため息をついてそっぽを向いてしまった。
退屈な授業を二つこなし迎えた昼休み。菅原さんのためにと印刷した写真があることを確認して皆にちょっと呼ばれてるから行ってくる。と行って抜け出そうとした瞬間、間髪入れずに由香里が「誰に?」と聞いていたので私は渋々菅原さんの名前を出す他なかった。
「えー屋上の鍵スガさんも持ってたんだ!意外な接点だね。了解、行ってらっしゃい〜!」
月島にはまだ写真を見せる勇気がなかった手前、菅原さんに写真を見せることは気が引けて言えなかった。月島の顔を見ないまま教室を後にした。早歩きで向かい人気のなくなった屋上前の階段を駆け上がる。鍵を開けるとすでに菅原さんはいた。
「ごめんなー忙しいのに、一緒に飯食おう」
菅原さんはお弁当の包みを片手に持ちながらフェンス際へと私を呼んだ。手招きされるがまま着いていき、私もいそいそとお弁当を取り出す。異性、しかも先輩とふたりきりで食べるなんて始めてなことに気づき急に緊張した。
「#dfam#ちゃん弁当ちっさいなー!それで足りる?」
「菅原さんのが大きいんですよ!これでお腹いっぱいですよ。でも放課後になったらお腹減りますけどね。」
「分かるー俺も部活前用のおにぎり母さんに作ってもらってる。」
「そんなに食べるんですね!まあでも月島くんも部活終わったら流石に空腹みたいでした。甘いもの食べるのはよく見るんですけどご飯はあんまり食べてるイメージなくてびっくりしました」
菅原さんは笑うかと思ったがへえ、と間の空いた相槌を打ってきた。
「席隣なんで山口くんも一緒によく一緒に食べてるんですけど、二人ともお弁当箱そこまで大きくないんですよ。なんか菅原さんのお弁当見てたら逆に二人が心配になってきました…。」
「あいつら食べなさそうだもんな、あれ、じゃあ今日も一緒に食べる予定だったんじゃねーの?」
「あ、そうですね。今日はちょっと菅原さんに呼ばれて行くって言って抜けてきたんですけど…もしかしてなんかまずかったですか?」
「いや、全然!むしろありがとう」
なぜお礼?と疑問符が浮かんだものの特に気に留めず昨日の写真を取り出した。
「どうです…?遠慮なく感想言ってもらえると助かります。」
「えー俺写真のことなんてわかんねーからな…、うわ、俺こんな顔してたんか!恥ずかしい」
「そんなことないですよ!格好よかったです」
「ほんと?#dfam#ちゃんがそういうならいいか」
有り難いことに菅原さんは動画には触れず、そのまま写真をまじまじと見つめては満足そうな笑みを浮かべてくれた。そうしているうちに昼休みが終わりを迎えようとしたため撤退する。お弁当を鞄にしまい込みながら「また気軽に来てよ、#dfam#ちゃん来るとアイツラもやる気出るからさー」なんて菅原さんから言ってもらったけど、行ったら行ったでお邪魔だし、多分月島くんが嫌がりそう。眉間に皺を寄せながら「なんでいるの?」って言われるところまで想像できて思わず苦笑いする。
「あー…まあ、あいつ等っていうより、#dfam#ちゃん来てくれると俺が嬉しいわ、待ってる!」
じゃあ行くか、外まださみーべ。と言いながら温めるように私の手を取り菅原さんは屋上を後にした。白くて綺麗だけど無骨な手を思わず見つめる。これが沢山人にトスを上げてきた手か。なんて場違いなことを思いながら見つめてると屋上から出た瞬間に菅原さんはぱっと手を放した。
「わっ!つい触っちまった、ごめんな!嫌じゃなかった?」
無意識だったようで突然あたふたする菅原さん。白かった指先とほほがピンク色に染まる様みて可愛いなと思い私はつい笑ってしまった。嫌じゃないです、と言うと菅原さんは安堵するように息を吐いた。
「いやだったらそもそも菅原さんと2人で会ったりしないです」
「何それ、#dfam#ちゃん、もしかして魔性なの?」
「えっいや、他意はないです!!ほんとに、菅原さん良い人だなって思っていっただけですよ!!そんな!」
揶揄うような声のトーンでそう言いながら、彼自身の両腕をぎゅっと抱きしめる姿で冗談だとわかりつつも否定する。 私にはをたぶらかすほどの魅力も気力も体力も今の私にはないです。何をするか探すだけで精いっぱい。そう思いながらも一瞬脳裏には月島くんが浮かんでしまった。
「まあ、#dfam#ちゃんなら魔性でも大歓迎。」
そう言い残し、「またね」と手を振る菅原さんに応じる一方で、頭の片隅にはハンバーグを食べながら笑みを浮かべる月島くん。誰かに何かを言われたわけでもないのに傲慢にも二人を天秤にかけてしまっていることに気づき、自分がひどく汚い人間に思えた。
(2024.03.14)