09 脳内フィルムに焼き付けるように
「お前らその身長ずるだろ」
「じゃあ弓元も身長伸ばせばいいでしょ」
体育館に響く足音はバレー部で聴いたそれよりも賑やかで人の声が騒がしい。体育の授業のバスケで私のチームが休憩中の今、反対側のコートで試合をしている月島くんを見てるとクラスメイトにも相変わらず意地の悪い回答をしていた。確かに月島くんが群を抜いて大きいせいでうっかり感覚が鈍りそうになるけどうちのクラスでは月島くんも山口くんがクラスでずば抜けて身長が高かった。明らかにコートの中で浮いている。
「はぁー、お前まじ性格わりーぞ!俺が華麗なドリブルでお前を抜いてやる」
「ははは、たかが授業なんだからそんなにムキにならないでよ」
だいぶ口は悪いがなんだかんだ仲良さそうで男子ってよく分からないな、と思いながら彼らの球の行方を目で追う。
笛と同時にボールが素早く動き出す。月島くんがやや遠めのところから放った最初のシュートは惜しくもゴールネットに入ることはなく、落ちたボールを弓元くんが素早く広い、相手ゴールまで運んだ。月島くんは弓元くんにムキになるなとか言ってた癖に悔しそうな顔をしてた。
弓元くんの先制点に負けじと月島くんは弓元くんが外したシュートをゴール下で奪い山口くんにパスを回す。山口くんがドリブルでゴール前まで持ってきたが囲まれている状態で後ろ手にいる月島くんにパス。スリーポイントシュートラインから月島くんはドリブルで前まで詰める。ディフェンスを抑え込みながら左で一本で放ったボールは緩やかな弧を描きながらバックボードにあたりネットの中に収まった。
カメラがあったら撮りたかったくらいきれいなフォームだった。
チームメイトから声援が上がる。その声にふと引き戻されて周りを見渡すと何人かの女子が月島くんに熱視線を送っていた。何も知らないくせに、と一瞬もやのような感情が広がったが由香里がコートから帰ってきたためその感情を追いやった。
「ずいぶん熱視線じゃない?まさかまじで好きになった?」
「なんのこと、」
「めっちゃ月島みてたじゃん、次#dname#の番だよ、ぼーっとして当たんないように気を付けなよ!」
「だからそんなんじゃないってば」
そういうも由香里はにこにことするだけで全然聞く気がない、これ以上大きい声で話すのも恥ずかしいので言われるがまま私はコートに並んだ。ぶつけるなんて恥ずかしいから絶対しない。心に決めながら身長的にとジャンプボールになった私はコートの中央に立った。
笛が鳴る、ボールには私の手が早く届いたようで、掌に力を込めると近くの味方に向かってボールが飛んだ。彼女が相手チームのいない別のメンバにパスを回す。数回ドリブルをして距離を詰めたが周りを囲まれた彼女が私に視線をやる。私は少し後方に駆けると彼女からパスが飛んできた。結構直線的なパスに内心ドキドキしながらもうまくキャッチできたことに安堵する。相手チームがこちらにかけてくる、背後に1人いる気配を感じたが、まあ授業の試合だし。と自分に言い聞かせリングに向き合い膝を沈ませる。
必要以上にいきまないようにと力を抜きながらゴールに向かって両手を放つと音もなくボールがネットに入った。
嘘。ラッキー。 唖然とする。一瞬の静けさの後、友人とチームメイトの拍手が耳に届いた。まぐれとはいえ嬉しいなと思いながらニヤついていると男子コートのほうから彼の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「おい、月島!」
その声に思わず相手コートを見るとその声に反応した月島がとっさにボールを受ける。ゴン、と鈍い音がした。顔をしかめた月島くんにもしかして、と思うと同じことを考えていたであろう山口が月島くんのもとに駆け寄った。
「ツッキー突き指してない?大丈夫!?」
「大丈夫、ちょっと大げさ。恥ずかしいから辞めて。」
先生とも何か話してとにかく大丈夫そうというアピールをしていたらしくそのまま月島くんはコートに戻っていった。バレー部だし、ケガが無いと良いなと思っていると月島くんとばちり、と目があった。すぐに視線を逸らされたのでほんの一瞬のことだったが、周囲からの注目を集めたせいか月島くんの顔が少しだけ赤いように見えた。
「お前らも怪我しないようにな、よそ見すんなよー」
そういってこちら側にも先生が歩いてきた、その声に応じるように私たちも再び試合を再開させた。スポーツは基礎練が苦しいイメージが大半であまり好きではなかったけどこういう授業レベルの試合は楽しくて好きだ。その後も点を取っては取られてで試合は終了した。楽しかったけど、あれ以降シュートは決められなかったのでビギナーズラックだったのだと思うことにした。
「まさかの月島のほうがよそ見してて笑った」
「たまたまでしょ、由香里が変なこと言うから」
「意外とアイツもちゃんと高校生らしいところあるんだね」
更衣室で着替えながら由香里がそう言って揶揄う。先ほどの熱視線の件もあったので、どこでだれが聞いてるか分からないんだからと冗談辞めてよね、ときつめにいうと由香里は口をすぼませた。そんなことより由香里はそういう人いないの、他クラスでもいいし。と尋ねてみると「顔は影山くんがドタイプなんだけど怖すぎて全然話しかけられない」と言っていた。
由香里にも苦手な人種ってあるんだなと思いながらもこの前一瞬だけあった影山くんを思い出す。確かにスタイルもいいしきれいな顔してるな。怖いけど。
「影山くんモデルにしても映えそうだよね」
「映えそうだけど被写体になってくれる想像がつかない…」
「月島もそうじゃん、でもなんだかんだ#dname#には優しいし、聞くだけ聞いてみたら?」
「うーん、そうだね、もうちょっとテーマ固めて必要そうだったら相談してみるよ、そのとき由香里もついてきてね」
「もちろん!てか寧ろそれを期待してた」
「由香里べつに誰とでも話せるでしょ、コミュ力モンスターなんだから」
「いややっぱ推しは緊張するって」
由香里にはそう言いつつも、前回の菅原先輩の一件を思い起こし、もし影山くんに被写体なんて頼んだら月島くんが益々不機嫌になるかもしれないなと考えていた。由香里にはごめんだけど多分被写体のお願いはしないだろう。代わりにどうにかして由香里と影山くんとの接点を持たせるから許してほしいと心の中でひそかに懺悔をした。
(2024.03.19)