10 気心知れた仲
放課後、月島くんと約束した写真を撮るために、気心の知れた仁花に被写体をお願いすることにした。「私なんかで#dname#ちゃんのモデルなんかが務まるかな…」と戦々恐々としていたが、いざカメラを構えると自然にしてくれたのですごく助かった。 ここ最近仁花と話をする時間ががあまりなかったので、屋上で会った菅原さんのことや、月島くんのこと、バレー部の見学をしたことを話しながら撮影をすすめた。
「うわあ~なんか少女漫画みたいだね…!さすが#dname#ちゃん」
「いや、本当にジャージ借りたのも成り行きだし他意はないよ、それに菅原さんに至ってはその後ちょこちょこ連絡来るだけで特に何もないもん」
「そうかなあ、でも恋の予感、とかありそうだよね!」
屋上というキーワードがやけに心に響いたらしく、仁花がきらきらとした目で語る。仁花、人のことに対しては人並みの自信があるんだから自分にもそうしてあげたらいいのに。
恋の予感、自惚れでもよければ少しはあったかもしれない。でも月島くんの優しさも、菅原さんの発言ももしかしたら仲の良い人なら誰にでも与えられるもので意識してしまうのはいけないものかもしれない。
あれから、菅原さんからは他愛もない連絡が来る。それが面白くて私も思わず返信してしまい、ゆるくラリーが続いている。
”今日の晩飯は麻婆豆腐!#dname#ちゃんは辛いのいける?”
”今日靴下間違えて左右色バラバラでやべー”
菅原さんがどういうテンションで送っているのか容易に想像ができて思わず笑ってしまうことも多い。
屋上への鍵は内緒で貰っている手前、今回撮影場所にする気はなかった。ただ仁花にしては珍しく興味を持ってくれているみたいだから折角だし、と教室を抜けて屋上に連れてきた。
フェンスの近くに行くと高さに怯えたようで「よくこんなところでお昼食べられるね」とちょっと引かれた。行きたそうにしてたの仁花じゃんか。と文句を言いながらシャッターを切った。色素の薄い髪色が夕日に反射してきれいだった。
「月島くんって、#dname#ちゃんとよく一緒にいる大きい金髪の人?」
「あ、そうそう、分かる?」
「高すぎて顔はあんまりわからないけどなんとなく分かるよ!」
「確かに仁花からしたらより一層高いよね。首が痛くなりそう」
「私めが見下げるなんてあってはならないので丁度いいですが…顔は覚えてないのは確かに失礼すぎるかも。反省します!」
「いやいや私も仁花のクラスの人ほとんど知らないしそんなもんだよ」
そうかな、それだといいんだけど、と言いながら仁花は困ったように笑った。学校ではある程度写真が撮れたのでそのまま二人で帰宅する。
「うーん、部活動としてやりたいことは特にないから、どちらかと言えばママのお仕事の手伝いして少しでも実力をつけておきたいかな。」
仁花も私と同じで部活動には入らず個人で活動するらしい。同じ境遇の友人がいて安心する。仁花はたぶん仁花ママと一緒でデザインの道に進むつもりだ。
でもどうせなら高校でやれることもやりたい、そう思った私は一つのアイディアをひらめいた。
「ねえ、じゃあさ、私たちでデザイン同好会しようよ。」
デザインと写真・動画制作。これらのスキルで一つの部活としてまとめられるのでは、という提案だった。仁花は一瞬きょとんとした顔をした後、私の思い描いているイメージに辿り着いたらしく顔が明るくなった。
「楽しそう!だけど、そんな大層なもの私にできるかなあ…」
「できるよ、大丈夫!てか私が教えてほしいし。仁花がデザイン、私が写真と映像でお互いのスキルを磨いていく会。帰宅部なんて名前ちょっと嫌だし。」
「#dname#ちゃんがそう言ってくれるなら、やろう!まずはテーマ探しだね。#dname#ちゃんのその映像制作のテーマでもいいと思うけど」
「うーん、それは私にだけ都合がよすぎる気がするからちょっと考えてみる、ありがとう。」
その日、帰宅部から私たちはデザイン同好会という名前に鞍替えし集いを作った。
帰宅後に仁花の写真をパソコンに読み込み眺める。
実は、今日月島くんにもう一度月島くんの写真を撮りたいから、また部活を見せてもらえないか?と尋ねてみたのだが、複雑そうな顔をして眉間に皺を寄せ始めたため思わず発言を撤回した。
「やっぱりあまり頻度高いと迷惑だよね、ごめん、忘れて」
「いや、そういうことじゃなくて、#dfam#さん来ても多分今日いいの撮れないよ。」
「どうして?調子悪いの?…あ」
「あ、じゃないよ、そうだよ。突き指してるから絶不調なの」
出来れば言いたくなかった、と不服そうな顔をしていたのでああ、やっぱりあの時突き指してたんだ…。とちょっと笑ってしまった。
「月島くんがぼーっとしてたの珍しいね、大丈夫?」
「は、元はと言えば…」
「え、何、私のせい?」
「#dfam#さん絶対スポーツ出来なさそうなのにノータッチシュート決めるからびっくりしすぎて気をとられたんだよ」
「酷くない?」
「こっちがびっくりするんだからああいうマグレは辞めてよね」
それは言いがかりでしょ。と文句を垂れながらも、あのシュート月島くんにも見られてたんだ、と思うと嬉しさと恥ずかしさが入り混じった感情になる。
「まあ、でも撮りたいものの候補に”バレー”じゃなくて”僕”を入れてくれるのはありがたいけどね。」
一体なにを言い出すのだと月島くんの顔を見つめるが、月島くんはいつもの揶揄うような笑みで私を見つめるだけだった。自分でも意図していなかったことに対して思わず頬が熱くなるが、月島くんは特にそれ以上言及することもなくその話は終了した。
いずれにせよ私が直感的に撮りたい、と思ったのは月島くんだったのだ。不調なら仕方ない。と今週の写真のテーマを部活以外に絞った。
人が驚くかどうかではなく、私が見ていて楽しくなるものを基準にするように心がけながら、パソコンに並んだイメージから何枚か”仁花らしい”と思える写真を選定し、彩度や明度など細かいところを微修正した。
出来上がった写真を取り急ぎ仁花に送ると私じゃないみたい、と照れたような返信が来た。褒めていただいていると受け取ることにし、この写真を来週に備えてプリントアウトした。
月島くんも写真を撮ってくると言っていたけど、一体何を撮るつもりなんだろう。写真を撮る姿なんて全然想像できないが、それだけのことを私のためにしてくれるという事実に心が温かくなるのを感じた。
(2024.03.20)